
あなたは絵を描いたり、ものを作ったりすることが好きですか?
ある研究によれば、大学生の年代になると、80%以上の人が、美術・造形を「苦手だ」と感じているそうなんです。
そういう残念な状況が生まれている最大の原因は、「上手に作品を仕上げなくてはいけない」という「作品主義」です。
この記事では、「作品主義」ではなく「心をつなぐもの」としての美術・造形(アート)について書いています。ぜひ、心と心をつなぐアートの働きを知って、関わってみてほしいなと思います。
アート表現活動を苦手だと感じている人が8割

絵を描いたり、ものを作ったりする活動を苦手だと感じている人は、本当に多いです。
私は、公立学校で美術を担当する教員をしてきましたが、出会う人出会う人、私の職業を知ると、かなりの高確率で「苦手なんですよ~」「絵が描ける人がうらやましいです」などとコメントされます。
文教大学の日名子先生らの2016年の研究によれば、研究対象になった大学生のうち53%が「美術・造形が苦手」と回答しているそうです。ここに「あまり得意ではない」または「好きだが得意ではない」という回答も加えると、苦手意識を持っている大学生は84%に上ったとのこと。
(日名子 孝三*・長谷川 悦子*「造形表現に於けるイメージ展開と苦手意識について」文京学院大学人間学部研究紀要Vol. 17, p. 1 ~ 12, 2016. 3)
これって、苦手な人がほとんどってことですよね。
数字で示されると、「うわー」って感じですけど、でも、私が出会った人たちの反応を思い返してみると、8割というこのデータは、確かに実感に近いです。
なぜアート表現が苦手になるのか

なぜ苦手になったのかという原因についても、研究はいろいろあるようですが、上位に挙がってくるのは「作品をけなされたり、笑われたりしたことがある」という声です。
本当に残念なことだと思います。
実は、自分のアート表現をけなされ、否定的な評価を受けることは、他の教科で不合格点を取ることとは決定的に違うところがあるんです。
それは、アートには、自分の心が現れている ということなんです。
アートは、自分の心の世界

「心を表そう」なんて思っていなかったかもしれないけど、アートには、自然に、そのときの発見、気分、考え、感じたことなどが現れているんです。
例えば、幼児が、グルグルグチャグチャ、ペンをでたらめに動かしてなぐりがきをしているとします。そのグチャグチャの線は、その子の発見や感情の痕跡なんです。
「この棒を握って動かしたら、こんなふうに色と形が、紙の上に出てきた!」という発見。
手を縦横に動かす快感。
自分が、この世界に主体的に関わっているという充足感。
「世界観」という言葉がありますが、子どもの絵は、子どもの「世界観」そのものなんですよね。
アート表現への「駄目だし」が、心を傷つける

その段階から成長して、子どもはやがて、描いた形に「ママ」とか「おさかな」とか、命名をするようになります。
そしてそのうち、「ママを描くぞ」などと意図を持って描くようになるわけですが、
このとき大人が「ママはこんなふうじゃないよ」と言ったり、「髪の毛は、こうやって描くんだよ」などと教えたりすることがあります。
この余計な介入が、「絵が苦手な子ども」を作ってしまうんです。
つまり、大人の口出しは、子どもへの「駄目だし」になっているんです。「あなたの絵は、これでは駄目だ」と伝えているのと同じ。
絵は子どもの「世界観」そのものなのに、
大人は「駄目だし」によって「子どもから「自分で発見し、自分で変化を作り出せる世界」という感覚を奪い去って、「大人の言うことを聞いて言う通りにする方がいい世界」と交換させてしまう・・・ということが起こってしまうんです。
もちろん、ほとんどの大人は、善意で教えているのですけどね・・・。
「褒める」のも、傷つき体験になり得る

そして、このような害は、誉め言葉によっても起こります。
例えば、字を覚えたての小さい子が、一生懸命、たどたどしい文字で手紙を書いてくれた、ということがあったとしましょう。
その手紙を受け取った大人が、手紙に込められたメッセージには目もくれず、「上手な字ね」「奇麗にかけているね」と褒めたとしたら、手紙を書いた子は、どんな気持ちになるでしょう?
きっと、心が伝わった とは思わないでしょうね。
さらに言えば、これは、心の深いところが傷つく体験になるのではないでしょうか。
絵を描いて子どもが見せてくれる。それは手紙と同じ。
子どもが何を感じたり、発見したりしているのかということに目を向けず、表面的な「上手、下手」だけを評価する「作品主義」は、手紙の文字をほめたり、けなしたりしているのと同じなんです。
「もう傷つきたくない」だからアートから遠ざかる

絵は、アートは、心の現れだから、それを否定されるのは、深い傷付き体験になります。
でも、「心を傷つけられた」「自分の世界観を否定された」と思い知るよりは「私、絵が下手なんだよね」と苦笑いしている方が、悲しみの度合いが浅くて済む・・・。
美術・造形が苦手な8割の人は、人生のどこかで、こういう傷つきを味わっているのではないかと思います。
そして、アートを介して心を傷つけられるダメージを知っているから、アート表現活動から遠ざかっていく ということになります。
「私、絵が下手なんです」という宣言は、「もう傷つきたくないんです」という、自らを守る言葉なんだと、私は思います。
心をつなぐものとしてのアート

私は、アートを、心と心をつなぐためのものとして使っていきたいと思っています。
アートに心の内が表出され、その心が受けとめられ、「ああ、そうなんだね」と暖かい反応を伝え返す。そんな循環の場を作っていきたいというのが、私の願い、夢です。
もし、かつて、アートに関連して心を傷つけられた経験のある方が、この文章に目を留めてくださっているなら、どうかあきらめずに、また何かのアート表現の機会を持っていただきたいです。
「苦手なんだよね」の方にも取り組みやすい、おすすめのアートワークは、以下の記事も参考にしてみてくださいね。

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